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動詞〈0.1〉 構成要素
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このページ:構成要素の説明

1.動詞の構成

 マーク 1. 1 構成要素(抜粋)
マーク 動詞の主な構成要素
前綴り 人称接辞 語 幹 活用語尾 人称接辞
前母音 語 根 語幹接尾辞
  前綴(つづ)り:文法用語では「動詞接頭辞」といいます。
  語幹接尾辞:「P/FSF」と略すことがあります。
〈参考〉Aronson 2.0 (pp.40-41), 表B.1 (p.465)/エクスプレス p.45, p.58

 ひとつの表ですべてを網羅することができないのは文法の宿命ですので、ここでは概要として、上の表の各要素についてわかる範囲で簡単に説明します。

 マーク 1. 2 語 幹 stem
 文字通りに動詞の中核をなす部分です。「前母音」「語根」「語幹接尾辞」で構成されます。「前母音」と「語幹接尾辞」は両方ないこともあれば(その場合は語幹=語根になります)、片方だけ付くこともあります。

 マーク 語 根 root
 動詞の中核的な意味を担う部分です。

 マーク 前母音 preradical vowel
 語根の前に付く母音で a-, i-, e-, u- の4種類があります。それぞれにニュアンスがあり、どういうときにどの母音が付くかはある程度決まっているようですが、用例は多岐にわたるため、個々のケースごとに覚えたほうがよさそうです。
〈参考〉前母音 ☞ Aronson 13.6 (pp.377-380)

 マーク 語幹接尾辞 P/FSF
 P/FSFは、現在形や未来形の語幹をつくるための接辞という言葉の頭文字です。直訳すると長いので、日本語では語幹接尾辞とか語幹形成辞と呼ぶようです。代表的なものに -av, -eb, -am などがあります。どういうときに何が付くかは、ケースごとに覚えるしかなさそうです。

 ——以上が語幹の説明です。いくつか例を挙げてみます。
 初めて見るとややこしいですが、最初のうちはそんなもんだと思ってぼんやり眺めておけば十分でしょう。☞  

マーク 語幹の例
┌ーー 語 幹 ーー┐
前母音 語 根 P/FSF
TS'er - 書く
sv - am - 飲む
a - k'et - eb - 作る
i - TS'q'- eb - 始める

〈参考〉Aronson p.40

 マーク 1. 3 前綴り

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マーク 動詞の主な構成要素
前綴り 人称接辞 語 幹 活用語尾 人称接辞
前母音 語 根 語幹接尾辞
  前綴(つづ)り:文法用語では「動詞接頭辞」といいます。
  語幹接尾辞:「P/FSF」と略すことがあります。
〈参考〉Aronson 2.0 (pp.40-41), 表B.1 (p.465)/エクスプレス p.45, p.58
 マーク 前綴り preradical vowel
 正しくは「動詞接頭辞」というようですが(☞ エクスプレス p.45、ここでは簡単に「前綴(つづ)り」と呼ぶことにします。
 前綴りの基本的な役割は、動詞の意味や方向の補完です。たとえば状態の変化を表したり、動作の方向を示したりします。例として mi-, mo-, ga-, da- などがあります。
 前綴りは動詞とセットで覚えるといいでしょう。動詞によっては同じ語幹に異なる前綴りを付けることでニュアンスや意味が変わるものがあります。英語の動詞句の副詞部分や中国語の補語などに似ているかもしれません。
➤ 前綴りには、現在形で脱落するものしないものとがあります。Aronsonテキストでは脱落する前綴りを「=」で、脱落しない前綴りを「+」でつないで区別しています。弊サイトでも分かる範囲でそれに従います。

〈参考〉
移動の動詞の前綴り ☞ Aronson p.42, pp.93-94/エクスプレス 5課, 12課

 マーク 1. 4 活用語尾

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マーク 動詞の主な構成要素
前綴り 人称接辞 語 幹 活用語尾 人称接辞
前母音 語 根 語幹接尾辞
  前綴(つづ)り:文法用語では「動詞接頭辞」といいます。
  語幹接尾辞:「P/FSF」と略すことがあります。
〈参考〉Aronson 2.0 (pp.40-41), 表B.1 (p.465)/エクスプレス p.45, p.58
 マーク 活用語尾
 英語で suffix とかending などと言いますが、どちらも「語尾」の意味ですので、弊サイトでは「活用語尾」と呼ぶことにします。
 上で見た語幹前綴りは、動詞そのものの意味内容をになっていました。それに対し、活用語尾は印欧語のように、時制(現在・過去・未来)、相(完了や進行など)、法(叙述、仮定、命令 etc.)などに応じて変化し、それによってさまざまな局面を表します。

 活用語尾は原則として、(1) 1人称と2人称、(2) 3人称単数、(3) 3人称複数、の3つの形をもちます。表にするとこんな感じです。

〈活用語尾〉
人称 単 数 複 数
1・2 語尾A
語尾B 語尾C
 マーク 時・相・法 screeve
 グルジア語の動詞は印欧語のように、時制(現在・過去・未来)、相(完了や進行など)、法(叙述、仮定、命令 etc.)などに応じた語尾を取ります。
 ところがグルジア語の場合、たとえば現在形や未来形などと便宜的に呼びますが、実際は現在や未来といった時間よりも、進行や完了(相)の意味合いが強くなります。
 たとえば「書く」という動詞を例に取ると、実際の動作は「いま書いている」「これから書く」「書いた」などであり、グルジア語の現在形の場合は「いま書いている」(英語で言えば I am writing)という進行形のような意味になります。
 つまり、現在形とはいっても、単に「いま」という時間を表すだけではなく、進行というも表しているのです。

 このように、グルジア語の動詞の形は、印欧語でいう時制、相、法の概念で明確に区別することができません。そのため、そうした時制、相、法などを一言でまとめて表す呼び方として、文法学者は screeve という独特の文法用語を使います。
 私にはその訳語がわかりませんので、弊サイトでは便宜的に「時・相・法」と呼ぶことにします。現在形、未来形、命令法などは、いずれも〈時・相・法〉のひとつです。〈時・相・法〉の種類や分類などについては後で触れたいと思っています。

〈参考〉screeveについて ☞ Aronson p.41, p.44/Wikipedia(英語)

 マーク 1. 5 人称接辞

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マーク 動詞の主な構成要素
前綴り 人称接辞 語 幹 活用語尾 人称接辞
前母音 語 根 語幹接尾辞
  前綴(つづ)り:文法用語では「動詞接頭辞」といいます。
  語幹接尾辞:「P/FSF」と略すことがあります。
〈参考〉Aronson 2.0 (pp.40-41), 表B.1 (p.465)/エクスプレス p.45, p.58

 マーク 人称接辞 person marker
 最後に人称接辞について簡単に説明します。人称接辞は人称マーカーともいいます。接辞よりマーカーと呼ぶほうがわかりやすいでしょうか。
 人称マーカーには「主語マーカー(接辞)」と「目的語マーカー(接辞)」があります。

 マーク 1. 5. 1 主語マーカー
  英語以外の印欧語によくある、人称による変化語尾の一種と思えばいいでしょう。グルジア語の主語マーカーはもっと簡単で、原則として、
 ・1人称(私, 私たち)が主語のとき、語幹の前に v
 ・1/2人称の主語が複数のとき、動詞の最後に t
をそれぞれ付けます。2人称単数と3人称に対する主語マーカーはとくにありません。まとめると、次のようになります。
〈主語マーカー〉
人称 単数と複数
[v]- 語幹等 -[t] ← 下線部の t は複数のときのみ
語幹等 -[t]
➤ 会話編でも少し触れていますが、見知らぬ相手や目上の人に対しては相手がたとえひとりの場合でも2人称複数形を使います。丁寧な形について 
〔2人称の単数形と複数形〕
 見知らぬ相手や目上の人に対しては、相手がひとりの場合でも主語および動詞の形に2人称複数形を使います。2人称単数形を用いるのは、相手が家族や友だちなどで、ひとりの場合です。日本語の敬語(ですます)とタメぐちの違いに近いのではないかと思います。フランス語やロシア語などの使い分けと同様です。
〈参考〉☞ Aronsonテキスト p.50 注1/エクスプレス 1課-2(p.22)

 マーク §1.4の活用語尾と§1.5の主語マーカーを合わせて表にすると、一般に次のようになるでしょうか。表からわかるように、ある時・相・法の活用は基本的に語尾A, B, Cの3つで決まります。

活用語尾と主語マーカー

人称 一 般 形
[v]- 語幹-語尾A - [t]
語幹-語尾A - [t]
(↑ 1・2人称の下線部 t は複数のときのみ)
単数:語幹-語尾B 複数:語幹-語尾C

 マーク 1. 5. 2 目的語マーカー
  グルジア語の動詞は、主語の人称を示す主語マーカーが付くだけでなく、目的語を取る場合には目的語の人称を示す目的語マーカーが付きます。
 詳細は私もまだ理解していないので、目的語マーカーについて知りたい方は『エクスプレス』の15課と16課あたりをお読みください。

〈参考〉動詞の構成に関する概略は Wikipedia(英語版)も参考になります。

revisions
2012.2.14 phpへの移行、全面的な加筆修正
2003.1.21 初 版