音と文字・3
3.q' の音
No. | 英 字 | 発音 | 文 字 | 音の説明 | か な | 番 号 | キー |
22 | q'(q) | [q'][qχ'][χ'] | (下記参照) | か行 | 24 | c |
この音はあまり馴染みのない音のようです。のどの奥でいったん息を止め(声門閉鎖)、のどを開くと同時に声を出します。「か」に似た音が出ます。アラビア語のカーフ Qaaf に似ているとの説明もあります。無気音なので、息はほとんど前に出ません。
細かいことを言えば、上の「発音」欄に示すように、発音には3通りのバリエーションがあるようですが、初学者はあまり気にすることもないでしょう(たぶん)。
なお、Aronsonテキストの英字表記にはアポストロフィがありませんが(q)、弊サイトでは政府方式[☞ Wikipedia]にしたがって /q'/ とアポストロフィを付けることにします。
〈参考〉Aronsonテキスト §1.3.(22) p.16
《 同類子音群 》
[q'] を含む同類子音群は、 放出音 p'、t'、TS'、CH' との組み合わせになります。
[p'/ t'/ TS'/ CH' + q']の同類子音群 |
p'q' t'q' TS'q' CH'q' |
4.鼻 音
鼻音には m と n があります。
No. | 英 字 | 発音 | 文 字 | 音の説明 | か な | 番 号 | キー |
23 | m | [m] | m の音 | マ行 | 12 | b | |
24 | n | [n] | n の音 | ナ行 | 13 | y |
◇ ひとりごと 下の丸の部分が縦棒の左にあるか右にあるかは、タイ文字の m と n のときと同じですね。m は「む」の左半分を連想すれば覚えやすいかも。
発音のルール:[n] は k / k' / g (軟口蓋音)の前にくると [ng] になる。
nk, nk', ng → ngk, ngk', ng
5.v の音
No. | 英 字 | 発音 | 文 字 | 音の説明 | か な | 番 号 | キー |
25 | v | [v][w][f] | v または w の音 | ヴァ行 ワ行など |
6 | d |
この文字には [v] と [w] の発音があります。
[v] | … 一般則として、語頭に立つときや母音に挟まれるとき |
[w] | … 主に子音の後や音節末にあるとき |
このほか両唇摩擦音 [β] の発音もあります: | |
[β] | … 破裂の弱いbの音。スペイン語のbに近い。 |
なお [v] は無声子音の前で無声化して [f] となる場合があります: | |
[f] | … 一部の無声子音の前 |
◇ ひとりごと 細かい規則はさておき、v の文字が [v] [w] [f] を表す現象はロシア語にも見られます。日本でも旧仮名では「かげろふ」と書いて「かげろう」と読んだりしますしね。
出現の傾向
本来のグルジア語において、v の文字 は:
・唇音 p/ p'/ b/ m の前後に来ることはありません。
・円唇母音 u または o の前には来ません。
(そのような場合、v は脱落します ☞ 下記 §9 参照)
・よく現れる位置は、上記以外の閉鎖音、GH と q、そして同類子音群の後ろです。
6.流 音
流音には r、l、 h があります。
No. | 英 字 | 発音 | 文 字 | 音の説明 | か な | 番 号 | キー |
26 | r | [r] | r の音(下記参照) | ら行 | 17 | j | |
27 | l | [l] | l の音(下記参照) | ラ行 | 11 | l | |
28 | h | [h] | h の音 | ハ行 | 33 | / |
6-1.R
スペイン語の pero のように舌先を一回だけたたく音だということです。巻く必要がないのは楽ですね。
発音のルール:
無声子音に挟まれたときは、無声化したり、完全に脱落することがあります。
6-2.L
Lの発音には次の2種類があります:
ふつうのL …… 母音 i と e(前舌母音)の前にあるとき
暗いL …… 上記以外。米語の ball のように軟口蓋音化した暗い感じのL
発音のルール:
無声子音に挟まれたときは、無声化したり、完全に脱落することがあります。
6-3.H
外来語でしか使用されません。
7.母 音
グルジア語には5つの母音があります。
No. | 英 字 | 文 字 | 音の説明 | 番 号 | キー |
29 | a | 口を開き、舌はやや前に出る 仏語の patte の [a] に近い |
1 | g | |
30 | i | やや開いた i 英語の bit の感じ |
9 | n | |
31 | e | やや開いた e 英語の get の感じ |
5 | t | |
32 | u | 唇を丸め、英語の book の要領 | 20 | e | |
33 | o | やや開いた o 独語の Glocken の要領 |
14 | k |
8.音の同化
グルジア語では子音群(子音クラスタ)が語頭を中心によく現れます。子音群には同類子音群と非同類子音群とがあります。グルジア語ではそうした子音群において音の同化がほとんど、あるいはまったく起こらないため、有声音/有気音/放出音がほとんどそのまま保持されます。
同類子音群は、これまで紹介してきたように、似た性質の子音どうしが連続する子音群です。これに対し、非同類子音群には有声音/有気音/放出音の子音が混ざっており、各子音がそれぞれ個別に発音されます。
たとえば bgera(音)という単語の“bg”は同類子音群であり、一回の解放(release)で発音されます。これに対し、Tbilisi(トビリシ、グルジアの首都)の“tb”は非同類子音群であり、[t] を発音したあとに [b] が発音されます。
《 非同類子音群の例 》
k'bili | 歯 | |
dokt'ori | Ph Dのドクター | |
t'ba | 湖 | |
q'ba | あご |
〈参考〉Aronsonテキスト §1.9 (p.19)
9.音の交替
この節では、(1) v の脱落 と (2) 音位転換の2つを取り上げます。
9-1.v の脱落
v ( ) の音は通常、次の場合に脱落します:
・唇音 p/ p'/ b/ m の前または後ろ
・円唇母音 u または o の前
9-2.音位転換
発音のルール:
[閉鎖音 or 摩擦音 + 鼻音 or 流音(m/n/r/l)+ v ]という音のグループ
↓ v の位置が鼻音または流音と入れ替わる
[閉鎖音 or 摩擦音 + v + 鼻音 or 流音(m/n/r/l)]
になる。
〈例〉
「18」は本来なら trvameti となるはずですが、この規則によって tvrameti となります。
補足:音位転換によって v ( ) が m ( ) の前に来ると、さらに9.1節の v音脱落ルールによって v の音が脱落します。
〈参考〉Aronsonテキスト §1.11 (p.27)
── 音の説明はここまでです。お疲れさまでした〜。
revisions | |
2012/2/02 | rをら行で表記 |
2012/1/03 | HTML4.01への対応+加筆修正 |
2009/2/15 | 「無気無声音」を「放出音」に修正 |
2001/10/31 | リニューアル |
2001/5/31 | 「結合クラスタ」の訳語を「調和クラスタ」に修正 |
2001/5/30 | 構成の変更と一部表現の改善 |