1.過去語幹
過去形も願望法も過去語幹から作るため、まずは過去語幹の形を挙げておきます。といっても、未来語幹とほとんど同じで、語幹接尾辞があれば取り、なければ未来語幹をそのまま使います。
▸ 語幹接尾辞とは語根の後ろに付く -eb, -av などの接辞です。
動詞の主な構成要素
前綴り |
人称接辞 |
語 幹 |
活用語尾 |
人称接辞 |
前母音 |
語 根 |
語幹接尾辞 |
▸ 前綴(つづ)り:文法用語では「動詞接頭辞」といいます。
▸ 語幹接尾辞:「P/FSF」と略すことがあります。
|
〈参考〉Aronson 2.0 (pp.40-41), 表B.1 (p.465)/エクスプレス p.45, p.58
※不規則:語根動詞〔語幹接尾辞をもたない動詞〕のうち語根の母音が e である動詞には、この e を i に変えるものがあります。また、語根が -ev で終わる語根動詞はさらに v が落ちて -iになります。 ☞ Aronson §5.3.1.c
過去語幹=未来語幹から語幹接尾辞をとる
(語幹接尾辞がないときは未来語幹と同じ)
移動の動詞 svla の過去語幹は
ვედ(
ved)です。
2.機能と意味
過去形……過去のことを述べます。動詞によっては完了の意味にもなります。英語では
aorist と言います。
願望法……現実とは違うモード、具体的には希望、意図、必要、可能などを表します。仏語の接続法に似ているかもしれません。たとえば「したい
」「する必要がある
」「できる」などの主動詞とともに用いてその内容を表します。
3.変化形
それでは変化形(語尾)を見ることにします。過去形と願望法は語尾が似ていますので、ひとつの表にまとめて示します。
3.1 be動詞 q'opn-a と移動の動詞 svl-a
この2つの動詞は特殊なので最初にまとめておきます。
be動詞 q'opn-a
〈q'opn-a:過去形と願望法〉
人 称 |
|
過去形 |
|
願望法 |
私(たち) |
|
ვ-იყავ-ი (-თ)
|
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ვ-იყ-ო (-თ)
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|
v-i-q'av-i (-t)
|
|
v-i-q'-o (-t)
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あなた(たち) |
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იყავ-ი (-თ)
|
|
იყ-ო (-თ)
|
|
|
i-q'av-i (-t)
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|
i-q'-o (-t)
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3人称単数 |
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იყ-ო
|
|
იყ-ოს
|
|
|
i-q'-o
|
|
i-q'-os
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3人称複数 |
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იყვ-ნენ
|
|
იყ-ონ
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|
i-q'v-nen
|
|
i-q'-on
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参考 ☞ Aronson §5.4.2, §6.1/エクスプレス p.77
移動の動詞 svl-a
〈svl-a:過去形と願望法〉
人 称 |
|
過去形 |
|
願望法 |
私(たち) |
|
ვედ-ი (-თ)
|
|
ვიდ-ე (-თ)
|
|
|
ved-i (-t)
|
|
vid-e (-t)
|
あなた(たち) |
|
ხ-ვედ-ი (-თ)
|
|
ხ-ვიდ-ე (-თ)
|
|
|
KH-ved-i (-t)
|
|
KH-vid-e (-t)
|
3人称単数 |
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ვიდ-ა
|
|
ვიდ-ეს
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|
vid-a
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|
vid-es
|
3人称複数 |
|
ვიდ-ნენ
|
|
ვიდ-ნენ
|
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|
vid-nen
|
|
vid-nen
|
参考 ☞ Aronson §5.4.3, §6.1/エクスプレス p.80
※実際はこの前に各前綴り(mi-, mo-, SHe- など)が付きます。前綴りについては「移動の動詞(現在形と未来形)」の1.3節をご覧ください。
3.2 1類と3類、2類i型の動詞
1類動詞と3類動詞に加え、2類動詞のうち前母音がi(eも?)のものは、以下の語尾を取ります。
〈過去形と願望法の語尾〉
人 称 |
|
過去形 |
|
願望法 |
私(たち) |
|
ვ-□-ე (-თ)
|
|
ვ-□-ო (-თ)
|
|
|
v-[ ]-e (-t)
|
|
v-[ ]-o (-t)
|
あなた(たち) |
|
□-ე (-თ)
|
|
□-ო (-თ)
|
|
|
[ ]-e (-t)
|
|
[ ]-o (-t)
|
3人称単数 |
|
□-ა
|
|
□-ოს
|
|
|
[ ]-a
|
|
[ ]-os
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3人称複数(1·3類) |
|
□-ეს
|
|
□-ონ
|
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[ ]-es
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|
[ ]-on
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3人称複数(2類i型) |
|
□-ნენ
|
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(同上) |
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[ ]-nen
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参考 ☞ Aronson §5.3, §6.1, §8.1.4/Begi. 11, 12課/エクスプレス 13, 14課
— 注 —
▸ ( ) 内のtは主語が複数のときに付けます。
▸ Xが主語マーカー、Yが過去形および願望法の語尾です。
▸ 既出のように、初対面などの相手には、相手が1人でも複数形(つまり-tが付いた形)を使います(2人称複数形の敬語用法)。
3.3 上記以外の2類動詞
2類動詞で前母音がi(eも?)以外のものは、以下の語尾を取ります。
〈過去形と願望法の語尾〉
人 称 |
|
過去形 |
|
願望法 |
私(たち) |
|
ვ-□-ი (-თ)
|
|
ვ-□-ე (-თ)
|
|
|
v-[ ]-i (-t)
|
|
v-[ ]-e (-t)
|
あなた(たち) |
|
□-ი (-თ)
|
|
□-ე (-თ)
|
|
|
[ ]-i (-t)
|
|
[ ]-e (-t)
|
3人称単数 |
|
□-ა
|
|
□-ეს
|
|
|
[ ]-a
|
|
[ ]-es
|
3人称複数 |
|
□-ნენ
|
|
□-ნენ
|
|
|
[ ]-nen
|
|
[ ]-nen
|
参考 ☞ Aronson §5.3, §6.1, §8.1.4/エクスプレス 14課
3.4 主な例外
母音なし語根
(母音のない語根)+
語幹接尾辞 -eb, -ob
過去形3人称単数:語尾が
ა (a) ではなく
ო (o) になります。
☞ Aronson §5.4
現在・未来形で母音なし語根 → 多くは強変化過去系列
☞ Aronson §9.1.1
〈強変化過去系列〉
人 称 |
|
過去形 |
|
願望法 |
1·2人称 |
|
-ი (i) |
|
-ა (a) |
3, 単 |
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-ა (a) |
|
-ას (as) |
3, 複 |
|
-ეს (es) |
|
-ან (an) |
※1人称と2人称複数は、これに上記の主語マーカー( 印)が付きます。
現在・未来形で母音なし語根+
語幹接尾辞 -av
過去形1·2人称 → 語幹接尾辞
-av を落とし(規則どおり)、さらに語根の子音の間に母音
a を挿入。〔
C1-C2-av →
C1-a-C2+強変化語尾 〕
(C1=子音1、C2=子音2)
過去形3人称と願望法:通常どおり。母音
a の挿入はない。
現在・未来形で母音なし語根+
語幹接尾辞 -i
過去形1·2人称(
一部の動詞)→ 語幹接尾辞
-i を落とし(規則どおり)、さらに語根の最終子音の前に母音
e を挿入。語尾は強変化。
※このほか、語根に母音 a が挿入されるものもある。
動詞の例外は闇で、私もよくわからないので、最後に名詞の格の話をして終わりにします。
4.主語と目的語の格
過去形と願望法では、主語と目的語の格について重要な規則があります。
1類動詞と
3類動詞では、
主語が能格、目的語が主格になります。下の表の「過去→」の行をご覧ください。2類動詞と4類動詞は通常どおりです。
※能格語尾については ☞ こちら非表示
- 語尾〔能格〕
- 1. 子音幹:語幹が子音で終わる
- -მა (ma)
- 〔一般形〕主格:-C-i →
- -C-ma
- 2. 母音幹:語幹が母音で終わる
- -მ (m)
- 〔一般形〕主格:-Xa, e, o, u →
- -Xa, e, o, u -m
- ※記号:C=子音,X=任意の音
第1活用動詞
(1類・3類動詞)
時・相・法 |
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主 語 (〜は) |
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直接目的 (〜を) |
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間接目的 (〜に) |
現在・未来1 → |
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主 格 |
|
与 格 |
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与 格 |
過去 → |
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能 格 |
|
主 格 |
|
与 格 |
完了 → |
|
与 格 |
|
主 格 |
|
参考 ☞ Aronson p.344, p.462
注1:不規則動詞「知っている」იცის (iTSis) は例外的に次のような格をとります。
現在 主語→能格、目的語→主格
未来 主語→与格、目的語→主格(4類動詞に準じる)
☞ エクスプレス pp.80-81/Aronson p.462中央